MEN’S 2019.10.08

101ストーリー「ミュージシャンが語るスタンダード 」
Vol.09 Kan Sano

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LEE(リー)の元祖モデル『101』を現代に伝えていくファッションストーリー。
さまざまな価値観が混在する今、そんな原点的なモデルをスタンダードと所縁の強いミュージ
シャンに着こなしてもらうとともに、“バンドの核=スタンダード”について再考。
彼らの紡ぎ出す音楽は、どんなことがベースとなり生まれたものなのか。昔から大切にしてい
る原点に立ち返りながら紐解いていきたい。
第9回目は、キーボーディストであり、トラックメーカーやプロデューサーとしても活躍するKan Sanoが登場。
去る5月22日にリリースした最新アルバム『Ghost Notes』のコンセプトや、自身の音楽遍歴から明かされる独特なサウンドの根源と、実に多岐にわたる彼にとってのスタンダードとは?

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Masaki Takahashi | Model:Kan Sano| Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe

新作は、自分をそのままさらけ出すような、生々しいサウンドにしたかった。

2011年に『Fantasitic Farewell』でデビューし、2014年には『2.0.1.1.』、2016年には『k is s』をそれぞれリリース。この間、野外フェスティバルにも出演してオーディエンスを沸かせるなど、Kan Sanoはコンスタントな活動のなかで着実に評価を得てきたアーティストだ。その一方で、キーボーディスト/プロデューサーとして数多くのアーティストのライブやレコーディングにも参加。そんな幅広い活躍を見せるKan Sanoが新たにリリースしたアルバム『Ghost Notes』はすでに先行シングルから話題となっており、サブスクリプションでは200万回以上の再生を記録。ニューアルバムが放つサウンドのように彼の活躍もまた、広がりを見せている。

4枚目のアルバム『Ghost Notes』が完成して今の気分はいかがですか?

Kan Sano(以下Kan)アルバムの制作は1年前くらいからスタートしました。音はずっと前に完成していたのですが、その後はエンジニアと数ヶ月にわたってマスタリング。1月にその作業が終わった後はジャケットなどの製作があって……。ようやくリリースされて、今はホッとしている状態です。

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AMERICAN RIDERS 101Z STRAIGHT(LM5101-500) 12,000円+税(Lee Japan TEL:03-5604-8948)、steinのドリズラージャケット 55,000円、BLOHMのブーツ 36,960円、soeのプルオーバーシャツ 19,000円、その他本人私物

楽曲はアルバム用に一から考えているのですか?

Kan曲が思い浮かんだらすぐに作っていくタイプではあるんですが、アルバム制作においては、まず「アルバムを出したい」という思いが強くなってから楽曲作りをスタートさせることが多いですね。基本的には、アルバム全体の大まかな方向性やコンセプトを決めてから曲を作り始めるんです。前作『k is s』をリリースしたのは2年半前でしたが、アルバムを1枚作ると、すぐに違うことをやりたくなっていろいろと考え始めているんですよ。だから『k is s』のリリースツアーのときは全国を回りながら次のアルバムのことをぼんやりと考えていましたね。例えば「今回は音数が多かったから、もう少し生の楽器にシフトして音数の少ないものがやりたいな」とか。次にやりたいことは常に考えているので、いざアルバムを作り始める頃には方向性がなんとなく固まっているんです。

生楽器にシフトしたサウンドがニューアルバムの大きな方向性ですか?

Kaoru:10年前くらいに、音楽評論家の三田格さんがアンビエントの歴史をまとめた『アンビエント・ミュージック』というムックを出されたんですけど、それが面白くて。それを読んでから、やたらとアンビエントを買うようになりましたね。ハウスとかテクノとは音が全然違うんですけど、自分のなかでは地続きみたいなところがあるんです。レイヴパーティでもアンビエントのサブフロアみたいなのがあるじゃないですか。そういうのを現場で経験しているから、地続きになってるのかもしれませんね。

—新作は3月にアナログ、6月にはCDでリリースしていますが、アートワークを変えた理由は?

Kanそうですね。今はみんながシンセサイザーを上手に使うようになっているので、センスのいい音楽が増えていますよね。もちろんそれはいいことだと思うのですが、一方で同じようなサウンドがあふれすぎているので、自分は少し違うことをやりたいとも感じていたんです。楽器のリアルな音や生々しい音を感じたいなって。

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『Ghost Notes』では、すべての楽器をおひとりで演奏されたと聞きました。

Kan全部の楽器を自分で演奏しましたね。いつもは打ち込みで作るようなリズムもあえて生のドラムで録ってみたり、シンセサイザーを使って入れるようなフレーズを自分でトランペットを吹いて入れてみたり。もともと楽器はギターから始めたのですが、バンドをやっているとスタジオの合間にドラムやベースを触ったりするじゃないですか? それに、トランペットは高校の吹奏楽で吹いていたし。今回のアルバムは、そういった今までの経験を最大限に使って制作した感じですね。

前作の『k is s』はリズムが強調された塊感のある作品という印象を受けましたが、今回はそれを受けて、より生っぽいサウンドを目指したということですか?

Kan前作からの反動は大きいと思います。それに、前作まではフィーチャリングのシンガーが多かったので、今回はひとりで全部作りたいという気持ちが強くなっていたんです。というのも、フィーチャリングの楽曲をライブで演奏すると、自分の曲なのにカバーを演奏している気持ちになることがあるんですよ。それって自分にとってリアルじゃないということなので、ならば、すべてを自分がやって、それをそのままさらけ出すような生々しいサウンドにしてみようと。

すべてを自分で担当すると苦労された部分も多かったのでは?

Kan20代の頃は、今ほど自分の演奏に自信がなかったので、一度弾いたピアノのフレーズをサンプリングするような作業をやっていたんです。でも30歳を過ぎて演奏にも自信が出てきたので、もうちょっと今の自分をさらけ出すようなミックスとか音作りでもいいんじゃないかと思い始めて……。そんなマインドになっていたので、制作自体の苦労は感じませんでしたね。

生のサウンドを実践したのは時代感ではなく、あくまでも演奏者のパーソナルな理由なんですね?

Kanそうです。今、このタイミングで生音の作品を出したらどんなふうに反応されるだろうとか、そういったことは考えませんでした。それよりも、今、自分が聴きたいサウンドを作ることのほうが重要ですからね。

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Lee 『101Z 』LM5101-500 12,000円 + 税

コーディネートに適度な”隙”を与えてくれるワンウォッシュのデニムは、オールシーズンで使用ができる必需品。大人っぽいスタイルにも難なくハマるストレートシルエットが特徴のLeeの『101』は、その最たる例だ。

ライブの演奏は、音源よりももっと熱量を込めたいんです。

Kan Sanoはバークリー音楽大学のピアノ専攻ジャズ作曲科を卒業した経歴を持つ。同校での経験は、その後のアーティスト活動における重要な一小節となるが、当然のことながら現在の音楽活動を支えているのはそれだけではない。Kan Sanoがたどってきた音楽遍歴を探ってみると、彼の幅広い嗜好のなかでのスタンダードが見えてきた。

バークリーを卒業されていますが、その当時はジャズに傾倒していたのですか?

Kan高校生の頃はジャズにどっぷり浸かっていましたね。でも、同時期にネオソウルやジャムバンドのブームもあって、とにかくいろんな音楽を聴いていました。そのなかにジャズもあったのですが、ジャズってアカデミックな音楽なので独学で演るには限界を感じて、それで留学することにしたんです。バークリーって、先生も生徒も腕利きのジャズマンばかりなんですよ。でも、そういう場所にいると、違うことに関心が向いてしまって……。

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AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-400) 12,000円 + 税(Lee Japan TEL:0120-026-101)、crepuscureのニット 16,000円、中に着たO -のロンT 14,000円、Rototoのソックス 1,600円、その他スタイリスト私物

kansano_05.jpgLee 『101Z 』LM5101-500 12,000円 + 税
アンニュイなカラーリングのアイテムと、リジッドのデニムは相性がいい。
オーバーサイズのトップスとコーディネートする際は、幅広いサイズ展開からジャストサイズの『101』をチョイスするのがおすすめ。

天邪鬼な性格ですか?

Kanいつもそんな感じです(笑)。その頃からですね、ヒップホップやクラブジャズを聴き始めたのは。もちろん、ジャズのセッションは楽しくて毎日演っていましたし、素晴らしいミュージシャンが学校にたくさんいるので、そのなかでプレーヤーとして鍛えられたという感覚はあります。でも、「これが最終的に自分のやりたい音楽ではない」というのはずっと思っていましたね。

卒業してから2011年にファーストアルバムを出すまでの活動について教えてください。

Kanデモをたくさん作って海外のレーベルに送っていましたね。なかでもGilles Peterson(ジャイルス・ピーターソン)が好きで、彼がオーナーを務めているブラウンズウッド・レコーディングスというレーベルにもデモを送っていました。あとはSoundCloudに曲をアップしたり、フリーダウンロードで配信したり。そんな活動を続けているうちに、海外のコンピレーションに楽曲を入れてもらえるようになったんです。

Gilles Petersonからレスポンスはあったのですか?

Kanありました! 何年か送り続けていたら、あるとき「ラジオで使いたい」って返事が来て、番組でかけてくれたんですよ。そのときはめちゃくちゃうれしかったですね(笑)。

幅広いジャンルの音楽を聴かれていますが、Sanoさんにとってのスタンダードな音楽はどういったものですか?

Kan今回作ったアルバムにも通じる話なのですが、やはり、10代の頃に聴いていた音楽、ネオソウルとか1970年代のソウルミュージックが自分のスタンダードになっていると思います。例えばMarvin Gaye(マーヴィン・ゲイ)の”What’s Going On”はずっとライブで演っているのですが、あの曲は自分にとってのスタンダードですね。ずっと聴いていられるし、何回演奏しても、何歳になっても飽きないんですよ。

最初にこの曲と出会ったのはいつ頃ですか?

Kan高校1年のときです。だから音楽に夢中になり始めた頃の気持ちを思い出させてくれる曲でもあります。”What’s Going On”は最初にDonny Hathaway(ダニー・ハサウェイ)のバージョンを聴いたのですが、それがカッコよくて、当時、自分のバンドでもカバーしましたね。それがきっかけでMarvin Gayeにも興味が湧いて……。この時期はブラックミュージックに興味を持ち始めて、同時にいろんな音楽を聴いていましたね。Soulive(ソウライブ)やJohn Scofield(ジョン・スコフィールド)など、ジャムバンド・シーンで盛り上がっていた音楽も好きだったし、その一方でJohn Zorn(ジョン・ゾーン)とか、リアルタイムで盛り上がっていたネオソウルとか。高校生の頃は、とにかく貪欲に新しいものを何でも聴きたい時期でしたね。

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今はどういった音楽を聴いていますか?

Kan30歳を過ぎてから、昔ほど新しい音楽に興味がなくなっているのを感じているんです。もちろん、それは自分でもよくないことだと思っているのですが、今は昔聴いていた音楽を聴き返す作業になってますね。僕は吸収してから吐き出すまでに時間がかかるタイプだと思っていて、やはり10代、20代の頃はインプットの時期だったように思います。逆に、今は何かを吸収するよりも、どんどん作って送り出していきたい気持ちが強いですね。

では、曲を作るうえで、時代性はそれほど意識していないのですか?

Kanそうだと思います。もちろん、仕事柄いろんなミュージシャンと関わるので、トレンドや流行っている音楽は耳に入ってくるし、そういった音楽にも携わっていますが、自分自身はメインストリームとは少し距離を置いていたいんです。全く違うことをやりたいわけではないですが、トレンドとは適度な距離を保っていたいタイプなんですよね。今、ちゃんとこの時代を生きていれば、自然と時代性は付いてくるだろう──それくらいのつもりでいます。

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6月7日からは『Ghost Notes』のリリースツアーが始まりますね。

Kan先日、ツアーに向けてリハーサル合宿をやったんですが、めちゃくちゃいい感じに仕上がってます。今回のツアーは、ドラムとベースと僕の3人で回るのですが、ひとりで作った音楽をもう一度3人で再構築するのがすごく楽しいんですよ。僕は音源よりももっとライブに熱量を込めていきたいタイプなんです。例えばMiles Davis(マイルス・デイヴィス)は1969年に『Bitches Brew』というアルバムを出しましたが、同時期のライブ音源を聴くと、全く違う演奏なんですよ。これももしかしたら自分にとってのスタンダードと言えるかもしれません。パフォーマーの感覚として染み付いていますからね。

最後に、普段のファッションについて聞かせてください。

Kan今日穿いたデニムもその一つかもしれませんが、最近はトラディショナルなスタイルが多いですね。でも、服の好みが数年ごとに変わるので、何年かしたらまた変わっている可能性はありますね(笑)。

今日掛けているメガネを見ても感じるのですが、ちゃんとしたものを好んでいるような印象を受けます。

Kanやはり、身につけるからにはいいものを選びたいので、なるべくファストファッションで済ませないようには気をつけています。でも、リサイクルショップなどで安くていいものを探すのは好きですね。だから古着も好きですし、リサイクルショップでレコードを探したりもします。あとは壊れているけどいい感じのフィルムカメラが数百円で置いてあったりすると、つい買っちゃいますね。

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Leeの『101』にも相通じるかもしれませんが、ビンテージっぽいものや歴史を感じさせるものが好きなのですか?

Kanズッシリと重みを感じるものが好きですね。もともとモノを集めるのが好きなので、例えばマンガも電子書籍じゃなくて紙の本で買っちゃうんですよ。ちょっと時代遅れなのかもしれませんが、このスタンスはこれから先も変わらないでしょうね(笑)。

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Ken Sano

キーボーディスト/トラックメイカー/プロデューサー。
バークリー音楽大学ピアノ専攻ジャズ作曲科卒業。在学中には自らのバンドでMonterey Jazz Festivalなどに出演。 キーボーディスト、プロデューサーとして名だたるミュージシャンのライブ、レコーディングに参加するほか、CMや会場音楽など各所に楽曲を提供。さらにSoundCloud上でコンスタントに発表しているリミックス作品やオリジナル楽曲がネット上で大きな話題を生み、累計40万再生を記録。
また、トラックメイカーとしてビートミュージックシーンを牽引する存在である一方、ピアノ一本での即興演奏でもジャズとクラシックを融合したような独自のスタイルで全国のホールやクラブ、ライブハウスで活動中。6月7日(金)からは、全国9都市を巡るリリースツアーが開催される。

Kan Sano 『Ghost Notes』


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レーベル:origami PRODUCTIONS
ASIN:B07QRN3W8W
JAN:4580246160813
価格:2,500円 + 税

origami SAI


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開催日時:2019年11月1日(金)
OPEN 17:30 / START 18:30
開催場所:Shibuya CLUB QUATTRO
料金:4,800円(1ドリンク別途)
出演:Ovall / Kan Sano / mabanua / Michael Kaneko / and more

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